薬の副作用の消化管出血の予防のため、
使用される2種類の胃薬の効果を比較した論文が、今年のAmerican
Journal of Gastroenterology誌に掲載されました。
急性心筋梗塞の治療後には、再度心臓の血管が詰まるのを防ぐ目的で、 抗血小板剤と呼ばれるタイプの、 「血をサラサラにする薬」を、 2種類以上併用して使用することが一般的です。
欧米において、その組み合わせの代表は、 アスピリンとクロピドグレル(商品名プラビックス)の併用です。
この両者の併用の、心筋梗塞の予後改善効果は確立したものですが、 出血の副作用のリスクが、 増加する点が問題です。アスピリンとクロピドグレルの併用の場合、 最も多い出血系の合併症は、消化管出血とされています。 中でも多いのが、 胃潰瘍や十二指腸潰瘍からの出血です。
心筋梗塞のことを考えればしっかりと「血をサラサラにする薬」を飲まないといけない、しかし出血のリスクも負わないといけない。循環器領域と消化器領域は、相反することが多いのです。
そこで、胃酸を抑え潰瘍を治療する胃薬を、 抗血栓剤と併用することにより、 このような胃や十二指腸からの出血を、 予防出来るのではないか、 という発想が生まれ、 使用が試みられているのが、 H2ブロッカーと呼ばれる胃薬と、 プロトンポンプ阻害剤と呼ばれる胃薬です。なんとなく出血しそうだから、“とりあえず胃薬”という感覚と合致するのです。
アメリカの循環器学会は、 2010年に2種類の抗血小板剤を併用する際には、 プロトンポンプ阻害剤の併用を推奨しています。
しかし、こうした急性心筋梗塞後の併用治療において、 H2ブロッカーとプロトンポンプ阻害剤の効果を、 直接比較した信頼のおけるデータは、
あまり存在してはいませんでした。
そこで今回の論文では、急性心筋梗塞や、 それに準じる病態で、 急性のカテーテルを行ない、 アスピリンとクロピドグレルを併用した患者さん311名を、
くじ引きで2つのグループに分け、 患者さんにも主治医にも分からないように、 一方ではH2ブロッカーである、 ファモチジン(商品名ガスター)40mgを、 もう一方ではプロトンポンプ阻害剤である、エソメプラゾール(商品名ネキシウム)20mgを、 それぞれ使用して、その経過を平均19週間程度観察しています。
その結果、胃薬の予防の対象となる、 上部消化管出血の発症は、 一定の重症度以上のものに限ると、 ネキシウム群では163名中1例、 ガスター群では148名中9例発症し、有意にネキシウムの方が、 予防効果が高い、 という結果になりました。
心筋梗塞の予後や再発は、両群で差はありませんでした。
つまり、心筋梗塞後で2種類の抗血小板剤を使用するような状況では、 プロトンポンプ阻害剤を使用するのが適切で、 H2ブロッカーでは充分でない可能性が高い、 という結果が得られたわけです。
当院では心筋梗塞に対して、心臓カテーテルで治療をした後の患者さんが多数おられます。参考にしたいと思います。