H. Pylori除菌療法の大幅適応拡大まで3日,浅香正博氏が解説
慢性胃炎の段階で保険適用,“胃がん撲滅元年”に(MT-proより)
高齢人口の増大に伴い,胃がん患者や胃がんによる死亡者は増加しており,医療費高騰も顕著である。胃がんの原因の9割以上を占めるHelicobacter pylori(H. pylori)感染に対し,慢性胃炎の段階で除菌を行うことができれば,胃がんの罹患・死亡数,医療費の減少が期待できる。このような中,H. pylori除菌療法が2月22日に大幅に適応拡大され,胃・十二指腸潰瘍などを未発症の慢性胃炎(「H. pylori感染胃炎」)に対しても診断と除菌が保険診療として可能になる。
北海道大学大学院がん予防内科学講座特任教授の浅香正博氏は,2月10日に札幌市で開催された冬季札幌がんセミナーで,今回の適応拡大の意義を強調。今年(2013年)を“胃がん撲滅元年”と位置付け,若年者と50歳以上に対する除菌療法の在り方などを解説した。
2020年に年間胃がん発生数は30万人以上に増加の見込み。
浅香氏によると,2020年には団塊の世代が70歳を超えることから胃がん発生数の増加が見込まれており,現在の約23万人から30万人以上,年間死亡数は現在の5万人から6万人となる可能性がある。慢性胃炎の段階で早期介入することができれば,萎縮性胃炎・分化型胃がん,未分化型胃がんなどの発症や死亡数の減少,さらに医療費削減が期待できる。
これまで胃・十二指腸潰瘍などの治療に限られていたH. Pylori除菌療法の保険適用が2月22日に大幅に拡大される。具体的には,慢性胃炎の段階で「H. Pylori感染胃炎」として,内視鏡検査を含めた胃炎の診断と除菌治療が行えるようになった。
そのきっかけは,日本ヘリコバクター学会が「H. pyloriの診断と治療のガイドライン2009改訂版」で,全てのH. pylori陽性者に対し除菌療法を推奨する見解を示したことだ。同学会はガイドライン発表と同時に除菌対象者の拡大を見越し,「H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医」の認定を行うなど,除菌治療が安全に行える体制整備に努めてきた。
陽性者に対し若年者では即除菌,50歳以上ではまず内視鏡検査。
浅香氏は,除菌のみでほとんどの胃疾患発生を抑制できる若年者と,除菌後も経過観察が必要な高齢者に分けて介入する胃がん撲滅プロジェクトを提案した。
若年者への対策としては,H. pylori陽性者には即除菌治療を行う。20歳の人口を130万人と仮定して医療費を考えると,検査は1人当たり8,350円(抗体法による診断2,650円,13C尿素呼気試験による除菌判定5,700円で計110億円),H. pylori陽性者を1割とした場合の除菌治療は1人当たり9,300円とすると計12億円となる。診断・治療で122億円だが,保検適用で患者の負担は37億円で済む。
50歳以上については,陽性例には内視鏡検査を施行し,H. pylori感染胃炎の場合は除菌治療を行い,萎縮性胃炎があれば1~2年に1回の経過観察,ない場合は任意型検診に移行する。H. pylori陽性者数を3,500万人,年間で1割に胃がん予防のための診断・治療(約1万8,000円)が行われたと仮定すると費用は630億円となるが,患者は保険適用により190億円の負担で済む。
全胃がんの5年生存率が60%から92%に改善。
現在の胃がん治療の年間費用は,内視鏡的粘膜下剥離術で約145億円,外科手術と入院で約1,900億円,化学療法で約1,000億円と計3,000億円ほどかかっている。年間で新たな胃がん発生数は約11万人とされている。そのうち5.5万人がH. pylori感染胃炎で受診して除菌され,胃がん発生率が75%に減少すると,同発生数は年間9.6万人で医療費減少は2,620億円,50%に減少するとそれぞれ8.3万人,2,260億円という効果が期待できる。
また,50歳以上では内視鏡検診により早期胃がんの割合が現在の60%から80%近くに上昇し,残り20%の大半がstage2とすると,予後は早期胃がんの5年生存率が95%,stage2が80%であることから胃がん全体で5年生存率が60%から92%に改善し,5年間で8万人の胃がん死亡を防ぐことができ,死亡数は年間で3万4,000人,さらに罹患数は年間2万6,000人になることが期待されるという。
浅香氏は「対策なしでは胃がんによる死亡者数ならびに医療費は増大していくだけである。保険適用により除菌治療とサーベイランスシステムの戦略を確立させることで,胃がん死亡の激減と医療コストの節減が可能となるので,今年を“胃がん撲滅元年”として捉えたい」と述べた。
主要な新聞にも掲載されていましたが、H. pylori除菌療法が適応拡大され,慢性胃炎(「H. pylori感染胃炎」)に対しても除菌が保険診療として可能になりました。これまでピロリ菌の除菌は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌の内視鏡的治療後の患者においてのみ保険診療として認められていましたが、ピロリ菌感染者に占めるこれらの疾病の比率は、全体からみれば大きくありません。今後ピロリ感染胃炎が医療保険で除菌出来るようになれば、感染者の比率が大幅に低下すると考えられます。
現場で問題になるのが、ピロリ菌感染の有無を調べる検査です。血液中ピロリ菌抗体検査、尿および便中ピロリ菌抗原検査、病理検査、呼気検査(当院ではおこなっていません)がありますが、これらの検査が自費なのか、保健適応なのかが混乱します。患者さんには“保険診療とはなんぞや”“混合診療とはいかなものか”から説明していますが、ホトホト疲れてしまいます。診療ではなく、日本の医療システムから説明しなくてはならないからです。
検査率を大幅に上げるためには検査も保健適応にならないとダメですが、現時点では内視鏡を受ける必要があり、患者さんの振るい分けは進みそうにありません。こんなんじゃ、胃がん撲滅は遠い未来の話、と思ってしまいます。
「そんなもん税金でなんとかせぇ!健康のことなんやから」と声高に言うのは簡単ですが、何事も先立つものがなければ・・。消費税upでも大議論なわけですから、国民もある程度の覚悟は必要なのでは。